24. 3K

それは朝、唐突に現れた。
通勤してきた俺の机の上。
お世辞にはまあ片付いとるっちゅう感じの机の上。
白いぺらっとした小さな紙にマジックか何かの太書きで。

3 K

そう書かれていた。

「……なんなん、これ?」
誰かのいたずらかいな、そう思う。
それにしても暗号にしたってえらく短ないか?
俺は顔を上げる。
こういういたずらをしそうな人っちゅうたら……

ナナメ向かいの席には銀色の髪の気の強い姉ちゃんが座っとる。
俺の同僚のレシティア=ライアン、通称レシィや。
レシィはここに入った時からの同期やし、こういうこともするかもしれへん。
俺は机の上に身を乗り出して、レシィに向かって紙切れを差し出した。
「これ置いたん、レシィか?」
だが、違っとったらしい。レシィは目を大きくしてびっくりした顔をした。
「知らないわよ、そんな紙。何なの?その3Kって」
「……いや、それ、俺が知りたいんやけど」
まあ、つまり、レシィは関与してのうて、
誰から見てもこの紙は怪しいっちゅうこっちゃ。
「ラウの仕事の関係じゃないの?」
「そうやったとしてもこんなの知らへん。
なんや、これで思い当たることって無い?」
仕事……、まあ確かに俺はお忍び仕事が多いけど
こんなんは思い当たる事がない。
そうやったら、誰でもいいから心当たりを聞いてみるっちゅうのもええ手段や。
だけど、あんまりレシィの反応も良くない。
やっぱりこんな訳分からんもんは思い当たらんのやろうか。
「……18Kとか24Kなら聞いたことあるけど」
「そりゃ、金の純金度合いやっちゅうねん」
レシィにびしっと突っ込む。
おお、珍しく俺、突っ込んどるやん。
いや、そんな事、今は関係あらへんのやけど。
「3Kだったら……なんというか」
「不純物だらけちゅうこっちゃ。そんなん表示せんでもええやん」
まだ、レシィはそのセンを捨てきれないらしい。
やっぱり、普段怖い子やけど女の子なんやなあ。
「そうか、そうよね。じゃあ、なんなのかしら」
「なんなんやろうねえ?」
……結局振り出しに戻ってるし。
「それならセレスに聞いてみたら?」
レシィがもう一人の同僚の名前を呼ぶ。
ああ、確かにセレスならなんか知っとるかもしれん。
セレスの机に視線を移動させるがそこはまだ誰も居ない。
「ん〜、やっぱまだ来とらんよね、あいつは」
「真面目そうに見えて、ぎりぎり主義だからね彼は」
呆れ口調の俺の口ぶりにレシィがクスクス笑う。
レシィは今まで迷惑こうむったことが無いから
そんな余裕なことが言えるんや。
女の子には良い顔するからなあ。
俺は身体を元に戻すと、自分の椅子にどさっと腰を下ろした。
仕事始めまで、壁にかかった時計ではあと五分。
仕事場の扉が開くのも、おそらくそれくらい。
俺はのびを一つすると、手持ち無沙汰に時間を潰すことにした。
他にやる事もあるにはあるけど気になってほかのことなんて出来たりせーへん!

時計が始業時間を指す五秒前、ばたんと扉が開く。
緑の髪の優男、セレス=マイノルド。要領の良さならきっと世界一や。
そのくせ憎めへんからもっとタチ悪いんやな。
「おはようさん、セレス。これ、お前?」
俺はぎりぎりで入ってきたセレスに椅子に座ったまま例の紙切れを見せた。
「は?」
む、その反応からするとコイツも違うんか。
「ラウの机の上にあったんだって。心当たりある?」
横からレシィがフォローを入れてくれる。
それを聞いてセレスは大きくかぶりを振った。
「さあ?単位がついてたら分かるかもしれなけどね?」
『単位?』
俺とレシィの言葉がはもる。
ちゅーか、単位って言葉が出てくるとは思わんかった。
だけど、言った当人は当然というような顔をしとる。
「だってそれ3K(キロ)だろう?
単位が無いなら3000ってとこかな?」
なにやら謎が解けそうで解けない感じや。
なるほど、確かにK=キロやな。
だけどわざわざ3000を3Kとか書くか?
ああ、だからセレスは単位がどうこう言っとったんか。
「……ちゅうても3000も心あたり無いんやけどなあ」
俺はため息をつく。
仮に3000だとして、何の意味があるんやろうか。
必要経費とか?
それだったら来るのは請求書や。
なんだってこんな紙切れに……
短いから筆跡だけで即相手も推理できへん。
う〜ん、お手上げやな。
こうなったらもう頼るところは一つしかあらへん。


「失礼します〜」
隣の部屋に移動した俺の上司の部屋のドアを叩き、中に入る。
部屋の奥の席に茶色の髪のでっかい兄ちゃんがおる。
机の上は相変わらず書類やら本やら山積みで……いっつも何を調べてるんやろな。
忙しくて忙しくてたまらんみたいなんやけど。
「なんだ?」
そっけない返事が返ってくる。相変わらず愛想の無い兄ちゃんやな。
もうちょい愛想ようてもええのに、ってみんなに言うと同意してくれるんやけど
大概その後に『お前は懐っこすぎるよな』って返ってくるんは何故なんやろか。
「あの〜、これ、なんなんか知らへん?」
俺は歩み寄って近くで例の紙片を見せる。
上司の兄ちゃんはちょっと顔を上げてそれを見るとすぐに首を横に振った。
「知らん、他をあたれ」
……や、もうちょっと反応してくれてもええやん。
「隊長〜、ほんま困ってるんよ〜。助けてえな」
かといって、もうすがる先はここしかない俺は必死に食い下がるが……
なんだか兄ちゃんの方は顔をしかめている。
う、ちょっと怒らせたかもしれん。
いや、それなら毎日のような気もするけど……!
「知らないものは知らないんだ。」
きっぱり断られる。
俺、ピンチ。
どないしよう……!
心底焦ってる時に、ドアを叩く音がした。
がちゃっと開けて入ってきたのは銀髪の兄ちゃん。
……最近、研究室に入ったっちゅう怪しげな兄ちゃんや。
なんちゅうか、マッドサイエンティストっちゅうかなんちゅうか……
とにかく色々おっかないねん。
あんまり好き嫌い言わん性格やけど、この兄ちゃんはちょっと生理的に苦手や。
「やあ、ラディス。ああ、ラウディもいるじゃないか!」
明るい笑顔で話しかけてくる。そうこの明るい笑顔が怖いんや……。
何考えてるか全然分からんのがさらに怖い。
「どうした、ロキルド?」
さすがに隊長は怖くないらしい。ああ、さすが隊長や。
「ん〜、ちょっと用事があって。
あ、ラウディ。メモ見てくれた?」
「はい?」
怖い兄ちゃんの問いかけに俺は目が点になる。
メモ?見る?
そんじゃ、もしかしてこの3Kっちゅうんはこいつが?
ロキルドの兄ちゃんは俺の手元に例の紙があるので満足したらしい。
なんか機嫌よう笑いかけてくる。
「じゃあ、ちゃんと買っておいてね」
買う?何を?
って、この3Kって買える物やったんか?!
「何を買う気だ、お前は……。
3Kとか書いても分からないだろう」
呆れ顔でラディス隊長が尋ねてる。
でも混乱しとって遠くで聞いてる感じや。
「何ってカリウムだよ〜!ちゃんとKって書いたじゃない!
3は3つって事!だから3K!」
ロキルドの兄ちゃんが何で分からないのって言った顔で
ラディス隊長につめよっとる。
ああ……これ、3Kって3つのカリウムやったんや……。
カリウムっちゅうたら常温で発火する金属やんか。
つまり、そんな危険なもんを買って来いと。
ああ、俺はどこまでも使いッ走りなんや……。
なんやへろへろと力が抜けていく。
「……そんじゃ、いってきます!」
俺は力をなんとか入れて部屋から駆け出す。
買い損ねたり遅れたりしたら何されるか分からんもんな。
この際、使いッ走りだろうがなんだろうが
なんでもやってやろうやないかい!

そんな訳で、俺の一日は今日も始まるっちゅう訳や。










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アーティフィシャルウィザードに出てくる連中のある日の一日でした(^^;
3Kの「K」がなんだか分からなくって……こんな感じになっちゃいました。
一応、一人称形式でばかり書いているから、統一して一人称形式で。
ラウディ視点なので、関西弁という変わりもの(笑)。
書きやすかったです、久々に(笑)。
あほな話ですいません;