10. ドクター

風邪をひいた。
頭が痛い、がんがんする。
熱も出ているらしい。ぐったりして、息苦しくて起きていられない。

つい昨日、街入りした所は吹雪だった。
ここは北国な訳で、雪が降ってようと当たり前なんだけど……
猛吹雪の中、宿に辿りついて……風邪をひいたの俺だけってどういうことさ。

いや、青怜のやつは剣士だし身体鍛えてるんだから元気なんだろうけどさ
架倫はどうなんだよ。ありゃ普通だぜ?
確かに海育ちの俺と違って山育ちだけどさ、そこまで強いのか?

まあ、どっちにしろ俺だけダウン;
一人、か弱いみたいじゃねえかよ、俺……。

コンコン。
扉が叩かれる音がして……ひょこっと長身の青年が顔を覗かす。
長い黒い髪……青怜だ。
青怜は俺の傍に近づいてきて、寝込んでいる俺の額に手を当てた。
冷たい手がひんやりとして心地よく感じる辺り、熱がやっぱりあるらしい。

「結構、熱が高いですね……。何か少しくらい食べてみますか?」
心配そうな青怜の声に俺は無言で首を振るだけだ。
しんどくって声もまともに出やしねえ。
「やっぱり……。一応、おかゆを作っていたんですけどね、
そう言うだろうと架倫が全部食べちゃって……。
食べたくなったら、それから用意しますね」

……架倫が全部食べちゃって……?
あんの小娘、人が寝込んでるってのにそれでも人の飯食うんかい!!

……まあ、それが架倫らしいっちゃあ、架倫らしいんだけどさ
なんか悲しくなるよな。どうしても。

そういや、架倫といえば顔を見てねえ。
どちらにせよ動けやしねえんだから、俺から動く訳にゃあいかねえけど。
まあ、あいつにとっちゃ、俺なんてそんな程度か。

そこまで考えたら何だか悲しくなってきた。

「もうちょっとしたらお薬持ってきますからね」
そう言って青怜は部屋を出て行った。
心なしか去り際、笑顔だったのは何でだろう。
あいつに限って、俺の不幸を笑うような奴じゃねえし
そんなような奴だったらライバル視なんてそもそもしねえし。
なんとなく、それがひっかかった。

……だけど頭が痛いほうが上だったらしい。
俺はがんがんする頭を枕に埋めると、再び眠りに落ちた。


ぺしゃん。
そんな音がしたかと思うと冷たいものが頭に乗った。
冷たくて気持ちがいいというより、本気で冷たくて目が覚めた。

「あ、起きちゃった?」
悪びれるそぶりもない言葉が降ってくる。
俺の限られた視界に、濃紫色の髪の少女が覗き込んでいた。
架倫だ。なんだ、来てくれたのか。
そんな事を思いながら、冷たいものの正体を俺は探る。
額に置かれたものはビニールに詰められた雪。
こりゃあ、冷たいはずだ。
「ああっ、とっちゃダメ!!」
架倫はそう叫ぶと
雪が見えるように視界に移動させた俺の手を再び袋ごと頭に戻した。
「それは、熱さまし用の雪なんだからね!」
「……わかったよ」
何とか声を出して、俺は彼女に答える。満足そうに彼女が頷くのが見えた。
それから彼女はごそごそと何かをしていたが、水と何かの錠剤を持っていた。
それを俺の枕元近くにある棚の上に置いた。
「これはお薬。さっき、街に出て探してきたの」
……ああ、なるほど。
薬が来るって言ってたのも、青怜の奴が笑ったのも
架倫が薬を買いに出かけていたからなのか。
俺にとっちゃ、薬も架倫もどちらも効果ありそうだから。
「薬、今飲む?後にする?」
架倫が問いかけてくる。
「……今、飲んでおく。そっちの方が早く治るだろうし」
「うん!」
俺の言葉に彼女が嬉しそうに笑っていた。
ゆっくり身体を起こして、彼女が手渡してくれた薬を飲む。
それを真剣に架倫が見守っていた。
「……大丈夫、熱さえひきゃなんとかなるって」
俺はそうやって彼女に言うのが精一杯だった。
熱出している時ってあんまり何かする余裕って無いもんな……。
心配してくれるのは嬉しいんだけど、どうみても俺、病人だしさ。
「うん、そうだね。ゆっくり休んで」
架倫は再び横になった俺に、布団をかけなおしてくれた。
「今日は、架倫がちゃんと看病してあげるからね?
だから、早く良くなってね」
「……うつってもしらねえぞ?」
「だいじょうぶだも〜ん!」
そう言って架倫は笑っていた。
その笑顔に安心感を覚えて、俺は再び睡魔に襲われる。

どんな薬より架倫の笑顔が一番安心する。
たまには風邪をひくのも悪くないか。
そんな事を思いながら、俺は夢の中に落ちていった。



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人物紹介リンク
 架倫 青怜

一度、なんらかで彼等の話を書いてみたくてこんな形での登場になりました。
ある旅の日の一幕って感じですね。
このメンバーだと一番、風邪ひきそうなのが龍かもしれません(笑)。
ちなみに架倫さんは優しい女の子ですが、容赦なく、龍のご飯は食べてるでしょう(笑)。
龍には早く良くなって欲しいけど、美味しいご飯が残るよりは食べちゃえ!!って感じで。
で、作った青怜は作る順番、間違えたな〜と思って苦笑する訳です。
ちなみに多分、架倫に風邪はうつらないような気がします(笑)。